前史でも触れたように、明石公園で今回のような「過剰な樹木伐採」が行われたのは、築城400年周年事業を前に県が発足させた専門家会議がつくったお墨付きを根拠に進めたものだが、その発端はこの周年事業を前に明石駅前を訪れた当時の井戸敏三知事のツルの一声がその引き金になったことは間違いありません。
明石駅前に2016年12月に開業した明石駅前の再開発ビル「パピオスあかし」は、明石駅を挟んで明石公園を一望できる北面はガラス張りになっています。知事がこのビルを訪れた際に、お城の石垣の眺望を妨げている樹木を全部切れと一緒に居た県職員に指示したことが発端とされています。このことは明石市議会の本会議で、当時の丸谷議員に対する答弁で泉市長が答えていたほか、同市長はその後さまざまな機会にこの時の“知事の指示”を紹介しています。
(2021年12月8日の明石市議会における丸谷議員に対する泉明石市長の答弁)
「井戸知事が明確にですね、横に居るものに全部切れと、すごい指示をなさいまして、私、びっくりしたのをよく覚えております。すごいこと言うなと思って、お城の壁が全部見えるように全部木を切れと、極めてクリアに強い口調で明確な指示を出されていたので、よく覚えておりまして、その後、樹木の伐採が順々に始まっていったと私は認識しており……」
また、情報公開で入手した県の公文書には、「オープニング式典時に知事から指示があった東西石垣の追加除伐・伐採箇所について、現地確認を行いながら……3者協議を行った」(2019年6月24日付け 「現地協議(復命)」)という記録もあり、ここから過剰な伐採が始まったことは間違いありません。この公文書からは、県が正面掘等の土塁の樹木を「除伐」するよう迫るのに対して、現場が抵抗している様子がリアルに伝わってきます。
すなわち、2017年の「城と緑の景観計画」を策定する専門家による諮問機関は、築城400周年事業に向けて石垣景観を際立たせるために樹木伐採を行う“お墨付き”をつくるために急きょ仕立てられた諮問機関であり、7人の委員が「結論ありき」の報告書をまとめたことになります。
県の担当課は手際よく、文化財保護法による石垣、景観除伐許可を文化庁に8回にわたって申請し、2018年から伐採が始まりました。初年度は292本、2019年度は313本、2020年度は683本、2021年度は630本の伐採計画を進めましたが、2021年11月になって市民から「過剰伐採反対」の声が挙がり、明石市長も動き出したことから、この年は12月までに390本伐採したところで、作業は一時中断されました。
この間、県はまた、伐採が進むのと並行して2018年7月~2020年9月にかけて「城跡保存活用計画」の策定を6人の委員によって進め、3回の委員会開催で「石垣に影響ある樹木の伐採」に対するダメ押しの“お墨付き”計画(2020年9月策定)を策定していました。
この間の経緯を見ると、明石公園について自然環境保全の視点は全くと言っていいほど見られず、史跡公園としての石垣保全や石垣景観しか眼中になかったとも言えます。
なお、園芸・公園協会などの現場の職員は、決して唯々諾々と県の過剰伐採方針に従ったわけではなかったようです。南側の土塁や箱堀の樹木を伐採するという県の方針に対して、現場の職員が、土塁上の樹木は「景観の生命線」「剪定すると幹だけが残り、鉛筆のようになる」と、伐採にも剪定にも反対して樹木を守ったことが公文書の記録に残されています。現場の職員は、過剰伐採に対する市民の批判の矢面に立たされ、呻吟しながら、職責を果たそうと奮闘したことがうかがえます。