公園の緑は誰のものか?

明石公園には3つの側面があることを先に書きましたが、明石公園つなぐ会は「明石公園の自然環境を次世代につなぐ」ことを目的に発足し、過剰伐採を止めたあとの明石公園の緑や自然環境をどのように維持発展させていくかに関心を持ちながら「公園のあり方」に関する議論を注目してきました。

城跡の緑と植栽についての誤った議論と「豊かな自然環境」の再認識

樹木の過剰伐採はすでに見てきた通り、石垣の保全や眺望を保持することを第一義的に進められました。これに対する賛否の議論の過程では「もともとお城や城内には、戦略上樹木や豊かな自然などなかった」という観点から、石垣周辺の樹木伐採を正当化する議論も見られました。確かに、城や石垣の威容を誇り、戦いに備える戦略上の砦として見ればその通りかもしれません。ただ、それは明治維新以前の話で、廃城令以降は幾多の変遷をたどりながらも城跡全体は公園として150年余の歴史を経てきました。

明石公園が先に見たように、都市の中心市街地に接した中で全国的にも数少ない「豊かな自然環境」を維持発展してきたことから、豊かな自然環境を重視したうえで城跡の保全とのバランスを考慮しなければ、明石公園の持つ特性を維持発展させることにはなりません。今回の明石公園のあり方を検討する議論の過程で、この視点はほぼ共有されたものと言えます。言い換えれば、過剰伐採の“お墨付き”にされた「城跡保全を優先した計画」には、自然環境の保全の視点が欠落していたからこそ、過剰伐採の見直しにつながり、あらためて「明石公園のあるべき姿」の議論が展開されたと言えます。

次世代に引き継ぐ「明石公園の自然環境」とは何か?

54.8haの公園区域は明石駅と中心市街地に隣接した立地条件ながら、戦後豊かな緑に包まれ、植生が発達し、野草や樹木は600種以上にのぼり、公園には日本の野鳥の11%に相当する66種が生息し、希少種にあたる昆虫だけでも30種以上が生息している「自然の宝庫」でもあります。

こうした動植物が生息するエリアは、国指定史跡外の北部だけでなく本丸や石垣周辺なども含めて公園全体に広がっています。明石公園部会が作成することを決めて、今後の公園の植栽管理の指標になる2つの「明石公園ゾーニング図」では、施設ゾーンや「緑の利用、保全、保護ゾーン」等に区分けした「ゾーニング図A」と、ピンポイントで「種自体に価値があるもの」や「分布上の価値があるもの」「環境学習や自然観察に適したエリア」「個体の特徴が面白いもの」「大事な植物や生物は多い石垣」「実験や観察が必要となるエリア」などをピンポイントで表示する「ゾーニング図B」を作成することも決めました。ゾーニング図は今後、多様な人たちからの意見を加えて書き込みを進めて、発展させていく仕組みです。

「過剰伐採反対」の声の中で、ストップした日常的な「植栽管理」

2021年11月に樹木の伐採が中断され、翌年4月に伐採計画が取り消しになり「あり方検討会」の議論が始まってから、日常的に行われていた植栽の管理が一時ストップしました。1年を経た2023年夏ごろには、公園内は「草ぼうぼう」の状態があちこちに出現しました。伐採した切り株からはひこばえが生い茂り、石垣も草や小枝が繁茂し始めました。

植栽管理の在り方を部会で議論しているのだから、その結論を待ってということだったかもしれませんが、手入れが伴わない公園内には批判の声も出始めました。とくに石垣周辺では樹木が生い茂っていた頃は下草の生え方も少なかったが、伐採で日当たりが良くなった石垣周辺の下草の生え方は尋常ではありませんでした。樹木が生い茂る中で互いに棲み分けていた生態系が崩れて、これまでにない光景が現出したのでした。

明石公園の豊かな生態系は、人が手を加えていない自然ではなく、適度の手入れを行う必要がある公園であり、自然と人為的な管理のバランスが取れた生態系であることも目の当たりにしました。

日常管理を担う協会の現場も、どのような植生を残し日常管理をしていけばいいのかの情報を求めていました。植生や野鳥、昆虫など明石公園の生態系に詳しい人たちと、日常の公園管理に当たる人たちとの交流と情報や意見の交換が日常的に行われねばならないことも、こうした中で分かってきました。つなぐ会が現場を預かる協会のスタッフとの懇談や意見交換を求めて実行したのも、そうした経験からでもありました。

なお、あえて書き添えると、つなぐ会の基本的なスタンスは「過剰伐採は反対」であり、管理上必要な伐採や、明石公園の豊かな雑木林を維持するために必要な手入れとしての剪定や伐採は行うべきだという立場でした。こうした点については、市民と専門家、行政による丁寧な議論が大切だということも痛感しました。

公園の緑から「まちの緑」への視線の広がり

明石公園つなぐ会の議論では、明石公園の緑を考える中で明石公園の外の「まちの緑」にも視線が及びました。主として街路樹です。

明石公園の過剰伐採の経緯を調べる中で、経費の関係から伸びすぎた樹木の「剪定」ではなく、石垣保全と景観・眺望に支障のある樹木の「伐採」に至ったことが分かりました。伐採なら文化庁の補助金が使えますが、剪定には使えないから県の単独出費になります。ならば、と伐採に至った経過も判明しました。

確かに、樹高の高い巨木を剪定するにはクレーン車などの使用が必要になり、経費がかさみます。明石公園だけでなく、その他の公園でも育ち過ぎた樹木の管理が大変なために、伐採したり、大きく育たないように剪定をする公園や街路樹管理が広く行われています。とくに街路樹では、「えんぴつ剪定」という呼び方まであるように、枝葉をすっかり伐採して幹だけの無残な姿に剪定される光景は日常茶飯です。いわば、管理の手間を省く、あるいは経費の関係から樹木の樹形や景観を尊重するよりも植栽管理の効率を優先する街路樹の管理が広く行われています。最近では大阪市で広範囲に樹木の伐採が行われ、反対する市民運動のうねりが大きくなり、一部では伐採計画の変更を余儀なくされています。

台風などの強風で倒壊したり、落ち葉の処理で苦情が出たりするなど、社会の緑に対する考え方の変化があることも事実です。とりわけ最近ではそうした社会的風潮を理由に「強剪定」といわれる“丸刈り”剪定が広がっています。

「杜の都」を掲げる仙台市は樹形に配慮した街路樹の剪定に注力し、都心部の街路空間は高木が多く樹冠が連続してつながった緑陰空間が形成されています。土の地表面からの水分の蒸発作用によるものや樹木に囲まれた緑陰空間を風が抜けていくことにより、気温が下がります。街路樹は都心部のヒートアイランド対策に十分寄与します。こうした揺るぎない方針のもとに仙台のまちが緑豊かな風格のある都市にとして成長し、今日の課題である「地球の沸騰化」対策にも寄与しています。

明石公園の自然環境を真正面から議論してきた今回の経験を、明石公園だけにとどまらせず、明石のまちの緑のあり方、ひいては都市の緑のあり方を転換する出発点にしたいものです。明石を「グリーン・リカバリー宣言都市」にしようという提案も、つなぐ会の議論ではありました。

タイトルとURLをコピーしました