過剰な樹木伐採が石垣崩壊を招く危険を指摘 「つなぐ会」が専門家を招いて現地調査

活動記録

20名で調査 泉市長も参加

史跡明石城址の石垣景観を強調するために樹木の大量伐採が続く明石公園で2月27日(日)、NPO法人・地球守の代表で造園・土木設計家の高田宏臣氏(千葉市)が「明石公園の自然を次世代につなぐ会」の要請で訪れ、同会メンバーら約20名と一緒に現地調査しました

調査には明石市の泉房穂市長も参加し、午前9時半から約2時間半にわたって城址一帯の樹木伐採現場を丹念に見て回り、高田氏の説明に聞き入りました。

日本の伝統的な土木造作について深く研究

高田氏は、土中環境の健全化、水と空気の健全な循環の視点から、住宅地、里山、奥山、保安林等の環境改善と再生の手法を提案、指導しています。近著「土中環境―忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技」(建築資料研究社刊)で、自然の平衡状態が崩れると土中の水と空気の流れが停滞し、水はけが悪くなり大雨の時には大量の泥となって流れ出す。日本の伝統的な土木造作では「地形自らが安定していくように仕向ける工夫」がなされており、自然に沿う知恵が石垣築造にも生かされてきたと、全国各地の城郭の実例から指摘しています。

高田さんの石垣に関する知見のポイントは

  • 周辺の樹木が石垣に悪影響を及ぼしていると現代土木では見られているが、それは日本の伝統的な造作に対する無理解から来ている。
  • 現代土木の構造物の耐用年数は、50年~100年。しかし、日本の伝統的造作でつくられた石垣や土塁には、何百年でも安定的に存続する。それは、明石公園を含む日本中の史跡等で実証されている。
  • 日本の伝統的造作では、自然に対する深い理解に基づき、水と空気の循環を考えて、環境全体のなかで、構造物が数百年にわたって安定するように考えられていた。
  • その核心は、木の根をうまく利用して、石垣と一体化させることで強固にするという、驚くべき智恵にある。
  • 樹が石垣に悪影響を及ぼしているどころか、樹が石垣を守っている

詳細は、「樹と石垣は、じつは仲良し」をご覧下さい。

石垣の樹木の伐採で、既に石垣にダメージ

本丸東側の二ノ丸、東ノ丸の南面石垣では石垣上部から根を張り、石垣と一体となっていた樹木が軒並み伐採され、石垣下にあった樹木もほとんどが根元から伐採されています。石垣が安定するには、根の深い樹木(カシやマツなど)が石垣の上に必要です。桜や紅葉を残していますが、これらは根が浅く石垣を守ることにはなりません。伐採からまだほんの1~2年しか経っていなませんが、石垣上部は乾いた砂や土がむき出しになり、石垣表面は明らかに乾燥して色合いも変色しています。

高田氏は「石垣周辺に樹木があったときは土中に根を張り、水と空気が活発に動いて自然の力で石垣を安定させていたが、その自然の力がわずか1~2年で後退し石垣と土中の乾燥が進んでいる。その証拠に、石垣の隙間に差し込んでいた小さい石や瓦片が落ちており、中には少し大きな石も崩れ落ちている。すでに石垣の上の土の部分に縦に筋が入って、泥が流れ出ている様子がわかる」と指摘しました。

水の流れを止めてはならない

二ノ丸石垣下にある明石市史跡「松平直明公遺愛お茶の水」の井戸は、既に水の流れが減り、水が腐り始めています。水の動きをつくるために杭を打つか定期的な掃除が必要です。「井戸の上の石垣にある大木は切るべきではなかった。この大木が水を誘導していた。こういうポイントは残していかなければならない」と高田氏は指摘しました。

このまま石垣周辺の樹木の伐採がされた状態で、土の乾燥が進むと、石垣内側の土が目詰まりを起こします。目詰まりを起こした土には、水が通りにくくなり、井戸の水が枯れてしまいます。石垣内側の水と空気の動きが鈍くなると、大雨などの際の土圧を受けにくい構造が壊れ、土圧をそのまま石垣が受けるという構造に変化してしまうのです。土中環境の状況を知るのに井戸はとても大切です。今後、井戸が涸れるようなことがあれば、それは危険な兆候です。つなぐ会は今後観察を続けます。

一帯には、石垣のライトアップ用に照明用の配電設備が張り巡らされ、そのために石畳みの水路が随所で遮断されているのも見受けられました。

数百年命をつなぐアラカシも伐採予定

東の丸東端の箱堀の石垣上にある樹齢百年以上とみられるアラカシは、土台になっている先代の木から数えると数百年になると見られます。この木も伐採の対象になっているようですが、近くにあるアベマキやツバキなどとともに石垣保全のためにも、伐採を止める必要があることも指摘されました。

樹木の伐採の影響が周辺の樹木へ波及

東ノ丸北側では、石垣の上の大きな木は伐採し、細い木を残しています。「風が吹いた時に、枝先だけ揺れている木は大丈夫だが、根元から揺れているのは、地面が乾燥して根がダメージを受けている証拠。桜堀側のアラカシ群が耐えられるかどうかが気がかり」とも言われました。大きな木を切ったためにこのようなことになっていると思われます。しかし、「復活の方法はある。行政とともに力を合わせて再生すればまだ間に合う」と高田氏は励ましました。

石垣と一体化した希少種ウスゲヤマザクラも伐採予定

本丸西端の石垣には、貴重種のウスゲヤマザクラが石垣に張り付くように生育しています。石垣上部にあるアベマキの大木と根っこはつながっており、水と空気が石垣の中で循環し、石垣を安定させています。伐採対象になっているようですが、石垣保全のためにもこのアベマキは残し、貴重種のウスゲヤマザクラも残すべきだと高田氏は指摘しました

桜堀北側では、伐採により土壌が乾燥

石垣保全と無関係な樹木が多く伐採・剪定された桜堀北側では、土壌に直射日光が当たるようになり乾燥。土壌の流出が見られ、森が荒れつつあります。「森の維持には樹木の適切な伐採は必要。その作法が理解されていない」、「森の維持に必要なメンテナンスが行われていない」と指摘しました。しかし、「手を入れれば再生は可能。市民が土壌改善の作業に参画する方法もある」と提案しました。

陸上競技場の3本の木を伐採する必要はない!

県が今年度中に伐採すると言っている城址ではない陸上競技場の石積み外壁の上の木も、何十年も石垣と一体化しており、石垣を壊す恐れも樹が倒れる恐れもない。戦後建てられた低い石積みだから、動いた石が気になるなら、その部分の石を取り外しておけば済むことだと高田氏はアドバイスしました。 (「つなぐ会」の見解参照

伝統的造作に理解のない人が樹木を伐採

調査後、懇談・質疑応答を行いました。

「現場を見て説明を聴けば誰でも分かりそうなことなのに、今の専門家はなぜ理解できないのですか」という質問に対して、高田氏は「数百年後を見据えた先人の視点も造作の意味も忘れられてしまった。残念ながら、今の古典土木の研究者も考古学者も、土木工学も、樹木や庭園研究者ですら、ほとんどはその視点が抜け落ちている」と指摘。

「石垣がなぜ数百年と安定してきたか」という当たり前の疑問を大切にして、虚心坦懐に先人の智恵に思いを致せば、真実が見えてくると感じました。

高田氏は、「偏った現代の見識が市民の誇りと憩いの場の環境を損ない、安全のためと思ってやったことがかえって大きな危険をもたらしてしまう、今、全国で木々が乱暴に伐採されて、多くの市民はそれに無念の思いを噛みしめているのだろう」とも語り、「石垣と樹木の問題は全国各地で問題化し、伝統的な土木造作に理解のない人たちが樹木の伐採に走っている。明石公園では2万人を超える反対署名が集まり、本格的な市民の声が高まっている。明石公園の問題は全国にも波及するので、頑張ってほしい」と話しました。

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